「行動と生理」

 メジナ類は典型的な磯魚のひとつで、その生活-食う、休む、敵から逃げるなど-のすべてを岩礁に大きく依存している。また、この類は昼行性で、夜明けから日没までの間に活動する。潮の動き、水温、天候など、いろいろの海況、気象要因とのからみで、最も活発な時間帯を特定するのは難しいが、一般に日中よりも朝夕のいわゆるマズメ時の方が、グレの動きは活発である。離島の大グレはよく夜釣りで狙うが、時合いは宵の口に限られ、これは夕マズメの延長と考えるべきだろう。
  メジナの幼魚は磯際の岩のくぼみなどを、夜の休み場所にし、夜が明けると群れをなして沖の磯に出る。そこでばらばらになって餌を食べるが、日没とともに再び集まって夜の休み場所へ戻る。
  成長するにつれて、昼間の行動範囲が広がり、砂地に隔てられた遠くの磯にも行く。3歳魚以上になると、夜の休み場所はやや深い岩礁の裂け目や岩の下になり、日中の行動範囲は、さらに広くなる。
  このようなグレの行動範囲の中で、お互いの争いはほとんど見られないが、タイドプールの中や水槽のように狭い環境では、かなり激しいなわばり争いをすることがある。このケンカはアユのように餌場を守ろうとするのではなく、隠れ家をめぐる争いである。
  隠れ家にこだわる習性がある以上、ハリ掛かりしたグレが、逃げようと目指すのは当然手近の岩陰であり、グレ釣りの取り込みでは、沈礁や岩棚をかわすテクニックが要求されるのである。
  水族館でのメジナは「丈夫で長もち」の代表選手だが、人馴れしにくい魚としても名が通っており、これはメジナの警戒心の強さを示すものである。潜水観察でも、危険を感じると、いち早く岩穴に逃げ込み、まったにダイバーを寄せつけない。
  このような観察例から、グレの習性を要約すれば、磯魚の中では行動範囲が広く敏捷な存在で、しかも用心深い魚である。グレ釣りでよく言われる「シモリを狙え」、「姿を隠せ」などの格言は、この魚の性質をよくふまえたものと言えよう。

 

 適水温について

 メジナ類は南日本の磯魚だから、低温にはあまり強くない。口太メジナは、低温で死ぬ限界は5度前後で、小型のものほど低温に弱い傾向が見られた。尾長メジナは口太よりもやや低温に弱い。
死ぬ限界まで水温が下がらなくても、11度前後になると、グレの行動は著しく不活発になり、餌もほとんど食べなくなる。
  一般にグレのような温帯魚の低温期の活動性は、水温のわずかな変化にも大きく左右される。
  同じ13度でも、12度からその温度に上がった時や、同じ温度で安定している時は、グレの行動はかなり活発だが、逆に14度から下がった場合は著しく不活発になる。
  高温に対するテスト例はないが、南日本の磯では真夏の表面水温が30度を越えることはほとんどなく、この温度ならグレは平気である。しかし、水族館の飼育例では、27度以上の高温が続くと、食欲が落ちる傾向がみられる。以上から、グレの好適水温は12度~26度と言うことができる。
  メジナ類の成魚は塩分濃度の変化に対して、クロダイ類ほど適応性がなく、むしろ狭塩性で、低塩分の水域は好まない。しかし、タイドプールで過ごす幼魚期には、かなりの幅で塩分濃度の変化に対応できると考えられる。浅いタイドプールでは真夏の炎天下に塩分が外海より濃くなるはずだし、逆に低潮時に大雨が降れば、真水に近くなることもありうる。口太メジナの幼魚の方が低塩分に耐えられ、一時的には真水に入れても死なない。河口の汽水域で釣れる木ッ葉グレは、ほとんどが口太メジナの幼魚である。

 

 主に視覚にたよって行動

 魚の感覚や行動はその脳の形とかなりよく関連づけられる。図はメジナの脳と、比較のためのクロダイの脳である。においの中枢の嗅葉がよく発達していて、主に嗅覚に頼る習性と考えられるクロダイの脳に対し、メジナの脳では視覚の中枢である視葉と、運動の中枢である小脳冠が、とくによく発達している。また、嗅葉もかなり大きい。この脳形から、メジナは主に視覚に頼って行動する敏捷な魚で、嗅覚も鋭いと言うことができる。
聴覚の主な中枢である延髄の形は、他の磯魚とほぼ同様だが、一般に魚類のの聴覚は人間より鋭く、人が感じとれない低周波音も感じとれるし、側線などの皮膚感覚器官で、わずかな水の動きや振動もとらえられる。グレもこの例外ではないから、磯際狙いの時など、無神経に物音をたてるのは禁物である。

 

 「食性」

 グレ釣りの主な餌は、オキアミなどの小甲殻類だから、この仲間は肉食性だと思われがちだが、本来は雑食性の魚で、海藻類もよく食べる。グレが好むのは、ホンダワラやァジメのような大型海藻ではなく、岩の表面に生える小型の柔らかい藻類である。グレの前歯は、そのような藻類を噛みとるのに適している。
  ただ、餌に対する適応性(餌の好み)は非常に広く、動物食あるいは藻類食だけを長く続けても、栄養障害を起こさない。従ってグレは季節に応じて、手近に採れるものを主食にしているわけで、その例が海苔を餌とする寒メジナ釣りである。